『  この空の下  ― (4) ―   

 

 

 

 

 

 

   ******  新春パロディ劇場  苦手な方 引き返してくださいね  ******

 

 

 

   ―  その夜。

 

  コツン ・・・ コツン。

 

「 ・・・ 小鳥がいるのかしら ・・・ いえ もう夜の帳が降り始めているもの・・・  

誰がわたしの憂鬱をますます激しくしているのかしら   」

フランソワーズはリネンの海でアタマを抱えていたが むっくりと起き上がった。

 

アルヌール家の姫君は 乳母のきみまで追い出し、自室に閉じこもっていたが

窓に当たる小さな音に 気が付いた。

 

「 ?? ― なにものです? 」

彼女はそっとテラスに出た。

「 ・・・ ぼくです!  姫君 ・・・ 

植え込みの暗がりから 押さえた声が聞こえた。

「 ! ・・・ もしかして・・・ ジョーさま? 」

「 そうです!  たったひとことだけお伝えしたくて やってきました。 」

「 ひとこと?? 」

「 はい。 ぼくの不注意でアルヌール家とごたごたを起こしてしまいました。

 ぼくは責任をとってこの街を去ります。

 その前に ― 一目だけ ・・・ もう一度お目にかかりたくて 」

「 ! だ だめよっ 」

「 ああ ・・・ やはりお許しはいただけないのですね・・・ 」

「 ちがうわっ! この街を去る なんてだめ。

 今・・ シーツを垂らすから  ほら上がってきて! 」

「 え。 そ そんな 

「 そんなもこんなも!  わたしはいつもここから出入りしていますわ

 ほ〜ら シッカリ握って! 」

「 え う うん  うわ・・・・・っ 

ジョーがひらり、と垂れてきた白いリネンを掴むと ぐん! と引っ張られた。

「 ジョーさまも! ご自分で登る努力 なさって! 

「 は はい ・・・ えい えい〜〜〜 」

「 よいっしょ ・・・!  そ〜〜れ・・・! 」

 

  ぐん ・・・・ どさ。 たちまち茶髪青年の身体はテラスの中に

転がりこんだ。

 

「 や やあ ・・・ あの その 」

「 ジョーさま〜〜〜 ジョーさま だわ! ああ 夢みたい! 」

「 お わあ ひ 姫〜〜〜 」

薄いピンクの夜着のまま 彼女は彼に抱き付いた。

「 待っていたの! わたしをこうやって抱き〆てくれるヒトを! 

「 ・・・ ああ 姫 ・・・ 」

「 フランソワーズ と呼んで 」

「 フランソワーズ・・・ ぼくの愛しいヒト ! 」

「 ジョーさま ・・・! 」

「 ジョー です、 姫 じゃなくて フランソワーズ。 」

「 あ い し て います、ジョー。 初めて会ったその時から 

「 フランソワーズ。 ぼくも。 目と目が逢ったその時から 

「 恋に墜ちてしまったわ 」

「 愛に目覚めてしまった・・・  フラン、ぼくの ヒト 」

「 ああ ・・・ 」

二人はしっかりと抱き合い 深く口づけを交わした。

 

「 ― ジョーさま あなたの妻にして 」

「 フラン ・・・ 」

彼は彼女をそっと抱き上げると 豪華な寝台にすべり込んだ。

 

 

 

  カサリ ・・・・  純白のリネンの海が揺れた。

 

「 ・・・ ん ・・・? 」

茶髪の青年は 心地よい微睡みからふっと浮き上がった。

「 ? あ ああ ・・・ ここは  」

目の前には笑みを湛えた碧い瞳が あった。

「 うふ・・・ ジョーさま? お起こししてしまったかしら ・・・ 」

「 ! ・・・ 姫 ・・・ ああ ぼくの愛しいひと 」

「 それは わたしのいうことよ 」

白い指が彼の頬を撫でた。

「 ・・・ ああ なんて可愛い人なんだ 貴女は! 」

「 なんて素敵な方なの ジョー様 〜〜 」

大きな手が 嫋やかな白い肢体を抱き寄せる。

しなやかな身体は ぴたり、と彼に寄りそう。

「 わたし ・・・ 幸せ ・・・ ああ これが愛の喜びなのね 」

「 ・・・ ああ 強引に貴女を求めてしまって ・・・ごめん。

 驚いただろう? 窓から入ってきたオトコに ・・・ 」

「 いいえ。  わたしのシアワセは窓から飛び込んできたわ。

 今晩はわたし達の記念の日 ね 

「 そうだね。 きみとぼくが結ばれた日 さ 」

彼は彼女の手を取り 薬指に口付けをした。

「 今は これが結婚の印。 すぐにヴェロナで最高のダイヤを贈るよ 」

「 いえ ダイヤなんかいらないわ。 この・・・温もりがあれば 」

「 ああ そうだね。 どんな輝石も黄金も恋の輝きには色褪せてみえるよ

 どんな地位も名誉も きみの夫である方が稀有な歓びさ。 」

「 うふふ ・・・ わたし達 ・・・ヴェロナで一番シアワセな恋人同士ね 

「 恋人 じゃないよ、 きみはぼくの妻だ フランソワーズ。 」

「 ジョー様 ・・・ ああ わたしの夫 愛しい御方 ・・・ 」

 

 コソ ・・・ 腕を絡ませあい 口づけを交わし合い 若い二人は

再びその身体を求め合い始めた。

 

 

 

    ・・・ あ  ら ? ・・・

 

ずっと傍らに感じていた温もりが すう〜っと消えようとしている。

うとうとしていたフランソワーズは ゆっくりと寝返りをうった。

「 ・・・ あ ・・・? 」

伸ばした手が得たのは ― リネンの感触だけだ。

「 ?  ジョー ・・・ どこ? 

「 あ ごめん、 起こしてしまったかい 」

「 ジョー ・・・ どこにいるの? 」

「 ぼくはここだよ、甘えん坊さん 」

  ちゅ。 温かいキスが頬に降ってきた。

「 うふ・・・ ねえ ここにいて?  わたしの隣に 」

素肌のまま 彼女は身体を起こした。

「 ほら ・・・ 風邪をひくよ? 」

大きな手がリネンを引き上げてくれた。

「 ・・・ あなたが側にいないと寒くて 風邪をひくの。 」

「 ごめん。 でも ― 夜明け前に ヴェロナの街をでなければならないんだ。

 ぼくは ・・・ 大切な友人をつまらない揉め事で失ってしまった。

 理由はどうあれ 街中で人死にをだした責任を取らねば。  」

「 そんな・・・ でも でも

 ねえ あれは ・・・ ナイチンゲールの声よ  まだ 夜だわ

 ここに わたしの隣にいて ・・・ 」

「 ・・・ いや あれは朝を告げるひばりのさえずりだ 」

「 どうしても行ってしまわれるの 

「 聞き分けておくれ。 ぼくはシマムラ家の者として責任をとらねば・・・ 

 

  ― バサリ。 彼女はリネンをかなぐり捨てベッドから降り立った。

 

「 それならば 逃げましょう!  ジョーと一緒なら わたし、どこででも 

 なにをしてでも 生きてゆけるわ! 」

「 フランソワーズ ・・・ 」

ジョーは 眩し気に目を細め 白く輝く肢体をそっと抱きよせた。

「 いや 姫君に苦労はかけられないよ。 ともかく明日、いや もう今日だね。

 ギルモア神父様のところに行くよ。 」

「 ええ そうね 神父様から大公さまにお願いしていただけるかもしれないわ 」

「 う〜ん ・・・ それはムズカシイな。

 あれだけの騒ぎを起こしてしまったから ― でもお願いしてみる。 」

  あ〜〜〜   そして フランソワーズ。  ぼくと結婚してくれますか 

「  もちろんよ! わたしはもうジョーさまの妻ですわ! 」

「 ありがとう !  」

「 妻ですもの、とこまでも夫君と一緒よ。 ジョー あなたが居てくだされば 

 それでいいの。 絹のドレスも宝石も毛皮も ― なんもいらないわ。 」

「 ・・・ フランソワーズ ! 」

「 行ってくる。 ここで待っていておくれ。 」

ジョーは彼の新妻にもう一度 熱いキスをした。

「 〜〜〜 ああ ・・・  ジョー ・・・ わたしの愛しい御方・・

 ね! わたしも行くわ! 

「 え?? だってまだ夜だよ 」

「 平気よ、マントを深くかぶってゆけば誰にもわかならいわ。 」

「 しかし − 」

「 さあ 行きましょう! ほら ひばりが鳴き始めるわ。 」

フランソワーズは 衝立の後ろに駆けこむと、あっと言う間に少年の形をし

マントを纏いつつ現れた。

「 さ これでいいわ。 ジョー 先にカーテンのロープを下りてくださる 

「 あ う  うん ・・・ 」

若干 すげ〜〜〜って想いでジョーは目を丸くしている。

「 ? どうしたの、ジョー? ぐずぐずしていると明るくなってしまうわ 」

「 う うん ・・・ 」

フランソワーズはきびきびと動き回り ジョーにも服を着せた。

 

    ・・・ すげ ・・・

    あ 案外 嬶天下 とか になる・・・かも?

 

    ま いいや。 頼もしいオクサンってことで

 

「 ジョー? 」

「 ああ 今ゆく。 そら しっかり降りろよ 

「 ふふふ〜〜 まかせてよ? コドモの頃からここを上り下りしているのよ? 」

「 では 出発。 」

しらじら明けには まだほんの少し間がある。

薄らぎ始めた夜の陰に身をひそめつつ 二人はギルモア神父の教会に急いだ。

 

 

 

  ふうう〜〜〜〜 ・・・・ 早朝の祈りを捧げていた神父は大きくため息をつく。

 

「 それで 一緒にやってきた、というわけか 

「「 はい! 」」

「 相変わらずやんちゃな姫だのう ・・・ 」

神父はお前、苦労するぞ? と ジョーに眼差しを送ったが 当の本人は

ぼ〜〜〜っと彼女の顔を眺めていたので てんで気がついてはいない。

「 神父さま〜〜 どうしたら・・・ わたし、このまま逃げてもいいですわ! 

「 フランソワーズ〜〜 」

「 落ち着きなさい。 まずはきちんとご両親と話し合いたまえ。 」

「 でも! お父様もお母様も全然わたしの言うコト、聞いてくださいませんわ 

「 ぼくは ・・・敵対する家の跡取りですから・・・お目にもかかれません。 」

「 う〜〜む ・・・ しかしなあ  逃げる、というのは 最後の手段じゃ 」

「 でも 明日、いえ 今日 ある伯爵とわたしは結婚させられてしまうかもしれません 」

「 ふむ ・・・ では時間稼ぎにだな、この秘薬をあげよう 」

「 なんですの? 」

「 含めば 仮死状態になる秘薬じゃ。 すぐに戻ってこれを飲みなさい。 

「 仮死 ・・・? 死んでしまう のですか 」

「 死んだように見える。 しかし 身体の奥で心臓だけは動いている。

 ワシが葬儀をとりしきり ― お前の棺を納骨堂に収めさせよう 

「 の 納骨堂 ・・・ 先祖代々の方のご遺骸が並ぶ場処 ・・・ 」

「 恐ろしいか? 

「 い いいえ!  ジョーさまと会えなくなるほうがもっと恐ろしいですわ 」

「 よろしい。 覚悟は決まったな。 

「 はい。 わたし ― ジョーさま いえ ジョーの妻ですから。 」

「 おお よく言った。 気持ちはしっかりと固まったね。 」

「 はい。 」

神父は 口を強く引き結び立って居る青年を振り替える。

「 ジョー。 こんな素晴らしい女性を妻にできて お前は果報ものだ。

 一生大切にしなさい。 」

「 はい。  ぼくは他の街でもどこでも身を粉にして働き 彼女・・・

 いえ フランを護ります!  そして フラン。 きみを想う気持ちに

 変わりはないけれど ― カテリーナに哀悼の祈りをささげたいんだ。」

「 ええ わかっているわ。 憧れのお姉さまでしたもの ・・・

 あんなことになら泣ければ お友達になれたのに 

「 そうだね。 ぼくは彼女を尊敬していたよ。 

「 おお おお あのジョーが立派になったのう ・・・

 ワシは大公に許しを請うから ― 一足先に隣街に行っていなさい。 

「 で でも フランを一人にするのは ・・・ 」

「 大丈夫じゃ。 明日の朝 ・・・ アルヌール家の納骨堂に来るのだ。 

 その頃 フランソワーズは蘇っておる。

 ワシも忍んでゆくから 二人でヴェロナから逃れればよい 」

「 はい。 ありがとうございます。

 フラン ・・・ 怖いだろうけれど辛抱しておくれ。 」

「 ジョー! 怖くなんかないわ。 秘薬を飲んで目を閉じる時も

 次に目覚めた時には あなたの笑顔が側にいる、と思えば ― 楽しみよ。 」

「 フラン ・・・ ああ フラン きみってヒトは 」

「 ジョー 〜〜〜 」

「 こらこら・・・ここは聖堂じゃぞ。 」

たちまち抱き合って唇を求めあう二人を 神父は呆れ顔で別けた。

 

 

 

  ―  翌日 当然だが大騒動がもちあがった。

 

「  ― ひ ひめさまがあ〜〜〜!! 

アルヌール家ではまず 乳母の君の悲鳴が響き渡った。

 

それはそうだろう、本日花嫁になるはずの女性がベッドの中で天に召されていたのだから・・・

当のアルヌール家だけではなく 周囲の人々も大騒ぎだ。

 

「 姫〜〜〜 姫!! どうして?? 」

「 ・・・ 私の愛しい娘が ・・・ 花嫁姿をみせてくれるはずの娘が! 」

「 ファン!! 愛しいファン!! 俺は神を呪うよっ 」

家族が驚き そして 嘆き悲しみあう中、あたふたと本日の花婿ドノもかけつけた。

「 と とんでもない知らせが来て・・・まさか 悪い冗談ですよね? 」

普段はシャレ者で通っている伯爵も 寝起きそのまま・・といった風情である。

「 おお〜〜 カール殿!!  姫が 花嫁が〜〜 」

「 伯爵さま〜〜〜  あなたの花嫁が ・・・突然 ・・・ 」

「 ・・・ まさか まさかと思っていましたが ・・・ 」

伯爵はよろよろと姫君の寝台に歩み寄り そっとそこに横たわっている人影を

みつめた。

「 ・・・ いつもは 花の顔 ( かんばせ ) が ― ああ 今は石のごとくに

 冷え冷えと ・・・ わが指を凍てつかせる ・・・

 おお 天よ地よ〜〜 我のために哭け おお〜〜 我が愛は山の彼方に 消えた! 」

こんな時も気取ったオトコなのだが まあ その落胆振りは本当らしい。

「 我らも信じられません。 昨晩まで元気で ・・・ 花嫁になる期待に

 胸を膨らませていたというのに ・・・ 」

アルヌール氏の社交辞令の発言に 夫人が涙ながらに咎めた。

「 ああ あなた・・・ こんなことになるのだったら・・・

 姫の思い通りにさせてあげればよかった・・・ あんなに嫌がっていたのに 」 

「 これ なんという ・・・・! 

「 いいえ ・・・ 亡き人の意志をまげては可哀想です・・・ 」

「 しかし ・・・ 」

「 いえ 父上!  ファンは 僕の妹姫は ― 想い人がいたのです 」

「 な なんだと ジャン?! 」

跡取り息子の突然の発言に 事情を知らなかったアルヌール氏は顔色を変えた。

「 ジャン ・・・ 本当なの? 」

夫人も涙を忘れ目を見張っている。

「 はい 母上。 ファンはそのことでとても苦しんでいました・・・ 」

「 まあ ・・・ その方はどなた? 」

「 ・・・ ファンの魂のためにも それはぼくの心に秘めておきます。 

 亡き人のこころを大切にしたいと思います 」

「 ジャン ・・・ そう そう ね ・・・ ああ でも フランソワーズ〜〜

 私の娘 〜〜〜 」

「 あ あのう ・・・ 」

「 ? ばあや・・・ どうしたというの? 」

愁嘆場に やはり涙で顔をよごした乳母の君が顔を出した。

「 はい ・・・ あのう〜 神父様が 今日の挙式の打合せにと・・・

 いらっしゃったのですが  

「 ああ そうでした、中央教会のギルモア神父様にお願いしていたのでしたわ 」

「 ・・・ ああ 婚儀をお願いした方に 葬儀を取り行っていただくことに

 なるとは・・・!  神よ 〜〜〜 」

またまた嘆きの声が上がるなか 素知らぬ顔で神父が現れた。

「 やあ 皆さん。 本日はめでたいことで ・・・ おや どうしました?

 どの方の顔も涙で汚れているようお見受けいたしますが 

「 おお〜〜〜 神父さま〜〜〜〜 」

「 ああ ああ・・・ 神父様 

「 どうなさいました?  おお こちらは花婿どのですな。

 おや? あなたのお顔にも涙の跡が見受けられますが ・・・はて? 」

 

  「「 神父さま〜〜〜〜 」」

 

「 はい なんでしょうかな?  え・・・?? ええ〜〜〜〜〜

 本日の花嫁が???  一晩のうちに天に召された ??? 

 おお〜〜〜〜〜〜   ・・・ しかし これは神の摂理でありましょう  

「 し しかし〜〜〜 神父さまあ〜〜 」

「 いやいや ・・・ 花嫁のあまりの美しさに 神は天国に呼び寄せられたのだ・・・

 そんなに嘆いては 亡き人が哀しみますぞ 」

「 でもでも 〜〜〜 ああ 姫 〜〜〜  

「 フラン・・・ どうして・・・ お前の笑顔さえあればそれでいいのに・・・

 どんなオトコと結婚したって フランがシアワセならば それが俺たちの

 幸せだったのに ・・・ 」

「 おお・・・ わが花嫁は ・・・・ 神の国の花嫁となってしまった 」

当の首謀者は 大袈裟に驚いてみせ ― てきぱきと葬儀を采配し始めた。

「 さあさあ 嘆き足りないのはよくわかるが ・・・

 この美しい花嫁を 静かに見送ってあげるのが残されたモノの務めですぞ。 」

「 ・・・・ ああ でも でも  死に装束なんて用意してありませんの。

 経帷子すらありません。 今から縫わせないと ・・・ 」

アルヌール夫人は 涙を流しつつも戸惑い続けている。

「 いやいや ・・・ この美しい姿に死に装束は似合わん。

 晴れに日に、と用意された花嫁衣装を纏わせてあげるとよい 」

「 はい ・・・ ああ 喜びの涙でながめるはずの花嫁姿を・・・

 こうして哀しみの涙で送るなんて〜〜〜  

「 せめて・・・ 姫が眠る納骨堂を浄めておこう ・・・ 」

「 父上 母上 僕が手配します。 妹への最後の・・・  

「 お願いね・・・ジャン ・・・ ああ ずっと仲のよい兄妹だったのに・・・ 」

 

哀しみに包まれた家族は 涙ながらに姫を送る準備に奔走し始めた。

 

 

   カーーーン ・・・・ カーーーーン ・・

 

ヴェロナの街に弔いの鐘が鳴り響く。

 

   へえ・・ どこの弔いかね?  え?? アルヌール家??

  えええ??? あの元気な姫君が??

 

  だって今日結婚式って聞いてたけど?

  ひえ〜〜 一晩で??  ふうん ・・・ コワいねぇ・・・

 

市民たちは ざわざわとウワサしあい 明るく美しい姫君の不幸に

哀しみに顔を曇らせるのだった。

 

その日のうちに フランソワーズ姫は家族たちに見送られて江

アルヌール家の納骨堂に秘めやかに 収められたのだった。

 

 

  カーーーーーン  カーーーン・・・・

 

ギルモア神父が司祭して 姫君の葬儀は滞りなく行われ、家族はもとより

友人 知人たちも哀しみの祈りをささげ彼女の突然の死を嘆いた。

 

 

 ―  その夜  優しい夕闇の帳がヴェロナの街を包み始めるころ ・・・

 

「 ・・・ 神父さま ・・・ 」

コツ コツ。

人影もない冷たい納骨堂の扉を そっと叩くものがいた。

マントのフードから茶髪が見える ― ジョーだ。

「 神父さま?? まだいらっしゃっていないのか ・・・

 うん? ドアが開いている ・・・ ちょっと恐ろしいけどこの中に隠れて

 神父さまを待ってよう 」

彼は するり、と納骨堂の中に入った。

「 ? あれ ・・・ 燭台が点っている・・・ 神父様のお計らいかなあ 」

ぼんやりした灯の中に ― 彼はとでもないものを見つけてしまった。

一番新しい墓の上には。

 

「 !! フラン・・・!!  ま まさか ・・・? 」

 

ジョーは台上に静かに横たわる愛しい人に 駆け寄った。

「 ! ・・・つ 冷たい! ああ〜〜〜 ぼくの愛しい人は冷たい身体になってしまっている・・・!  

ああ 本当に彼女は・・・ ! 」

彼は おそるおそる彼女の唇に口を寄せたが ―

「 ・・・ ああ ・・・これは 死の冷たさ だ ・・・

 フラン〜〜 フランソワーズ〜〜〜  き きみがいないこの世なんてなんの意味もない ・・・ 

カテリーナも逝ってしまった上に きみまでも ・・・ 

 ああ ああ やはりぼく達はこの世では一緒になれない定めなんだ・・・ 」

ジョーは 横たわる愛しい人の側に寄り沿うを す・・・っと我が剣を抜いた。

「 さあ ・・・ これできみに追い付ける・・・

 一緒にゆける・・・ ぼく達は星になって結婚しよう! これがぼく達の結婚式だ ・・ 」

  ドタ ドタ バタ バタ ・・・

 

大きな足音がして 誰かが慌てて飛びこんできた。

「 ちょっ! おいおい ジョー! なにやってるんだ??? 」

「 ?? ああ 神父さま〜〜〜 フランが〜〜〜 」

「 ああ そうじゃ。 仮死状態じゃが そろそろ目覚めるだろうよ 」

「 へ??? 」

「 ジョー お前! 昨日 教会でな〜〜にを聞いておった???

 おっつけ 彼女の顔ばかりぼ〜〜〜っと眺めておったのじゃろうが  

「 え  えへへ ・・・ 実は〜。  え  かしじょうたい  ってなんですか? 

「 ったく! お前は!  しかし間に合ってよかった〜〜 」

「 よくないですよ〜〜 フランが  ぼくの妻が〜〜 死んでしまった〜〜 」

「 だから! よく見てみよ。 そろそろ目覚めるころじゃ。 」

「 ・・えええ??? 」

 

 

     ・・・ ん ・・・ んん ・・・?

 

蒼白く冷たかった頬が ほんのすこしづつ染まり始めた。

それと共に 白い衣装の胸がゆっくり上下しはじめる。

「 う・・・そ ・・・・?? 」

「 ああ もう目覚めるな。 ほら 側にいておやり 」

「 は はい!  フラン ・・・ フラン〜〜〜 」

二人が見守る中、台上の花嫁は ― この世に戻ってきた!

 

「 ・・・ あ ・・・ わ たし ・・・? 」

 

ついに碧い瞳が 見開かれる。

「 ! フラン〜〜〜 フランソワーズぅ〜〜〜 」

「 ・・・ まあ ジョーさま ・・・ わたし ・・・? 」

「 ああ ああ フラン〜〜 無事だったんだね ! 」

「 フランソワーズ姫 ・・・ 目覚めたな。 」

「 神父さま ・・・ あ わたし、そうだわ あの薬 ・・・ 」

「 そうじゃ。 そなたは今 再び目覚めたのじゃよ。 起きられるかな 」

「 は はい ・・・ 」

ジョーが そっと彼女を支える。

「 大丈夫かい? 」

「 ええ ええ 最初 手足が強張っていたけれど ― ええ もう平気よ。 」

「 よかった〜〜〜  フラン〜〜 」

「 ジョー 〜〜 ! 」

二人は しっかりと抱き合った  ― その時

 

  ギ ・・・  納骨堂のドアが開いた。

 

「 ?? おかしいな ・・・ 明かりがともっているぞ 」

「 葬儀の時の残りか? 」

「 いや そんなはずは  ― 誰か いる?? 」

足音がして 男性が二人入ってきた。

神父も恋人たちも隠れる暇もなく 身を固くしているだけだ。

「 誰だっ! 我が家の納骨堂に入り込んでいるのは! 墓荒しかっ 」

薄暗い光の中 ― ジャン・アルヌールとカール伯爵が 現れた。

 

「 ・・・ あ〜 これは その、だな ・・・ 」

神父は 恋人たちの前に庇うように立ちはだかった。

「 神父さま!  どうして ・・・・?? 」

「 神父様が? 我らは亡き人にもう一度哀悼の祈りを捧げに参ったのですが 」

「 あ〜〜 その ・・・ 」

 

 「 !!ファン  い 生き返ったのか! 

 

ジャン・アルヌールが叫び声を上げた。

「 ジャン兄さま ・・・ 」

「 隣にいるのは ― シマムラ家の ジョー か??? 」

「 そうです、ジャンさん。 」

「 兄さま お願い。 わたし ― ジョーを愛しています。

 わたし ジョーの妻です。 どうか どうか 許してください。 」

蘇った花嫁の頬に ほろほろと涙がこぼれる。

「 ファン ・・・ お前がシアワセになれるのなら お前が生きていてくれるなら

 俺は ― 全てを俺だけの胸にしまっておくよ。 」

「 お兄さま〜〜 」

「 そのかわり ― 必ず幸せにしろ! 」

ジャン・アルヌールは じろり、とジョーを睨んだ。

「 は はい! 必ず! 誓います! 」

ジョーはぱっと姿勢を正し きっぱりと言い切った。

  はあ ・・・ 大きなため息がもれた。

「 ・・・ 姫は 鬼に浚われてしまった とでも言っておこうよ 

 貴女を失うより 遥かにマシだ ・・・ 

カール伯爵は 溜息混じりに言ってくれた。

 

「 おお 忝い。  さあ 二人とも・・・ 裏に特別に脚の速い馬を繋いである。

 それに乗って 隣街へ行きたまえ。 ヴェロナの大公閣下にはお許しをもらったよ。」

「「 はい !! 」」

ジョーとフランソワ―ズは しっかりと手を取り合う。

「 この空の下 きみがいれば それでいいんだ! 」

「 わたしも! あなたがいれば それがすべてだわ! 」

「 さあ 行こう! 

「 ええ 行きましょう! 」

「「 みなさん ありがとう〜〜〜 」」

花嫁衣装のヴェールをかなぐり捨て彼女は彼と飛び去った。

 

 

   そう この空の下 ― 生きてさえいれば きっとイイコトあるよね!

 

 

 

****************************      Fin.    ***************************

 

Last updated : 01,31,2017.                back      /      index

 

************   ひと言   **********

え〜〜〜 お決まりの? はっぴ〜えんど です(#^^#)

だって二人して死んじゃうなんて イヤなんだもん。

あんまり コゼロ のキャラが活かせませんでした〜〜